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福岡高等裁判所那覇支部 昭和49年(行ケ)1号 判決 1974年7月26日

原告

川満正公

右訴訟代理人

官良長辰

外一名

被告

沖繩県選挙管理委員会

右代表者

兼本長英

右指定代理人

真喜屋実男

外二名

参加人

上地真幸

右訴訟代理人

芳沢弘明

外一名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の申立

一  原告

1  昭和四八年一〇月七日執行された沖繩県宮古郡下地町長選挙において、その選挙の効力に関し申し立てられた異議申立を棄却する旨の下地町選挙管理委員会の決定に対する審査の申立に対し、被告が昭和四九年二月二〇日付をもつてした、原決定を取り消す、右選挙を無効とするとの裁決は、これを取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、昭和四八年一〇月七日執行された沖繩県宮古郡下地町長選挙(以下「本件選挙」という。)における当選人である。

2  本件選挙については、参加人上地真幸ほか一〇名から下地町選挙管理委員会(以下「町選管」という。)に対し、選挙の効力に関し異議申立がなされ、町選管は、同年一一月三〇日右異議申立を棄却する旨の決定をした。参加人はこれを不服として、さらに被告に対し審査請求をしたところ、被告は、同四九年二月二〇日、町選管の不在者投票の管理執行にかしがあり、右かしは本件選挙の当選人と最高落選者との得票差が四票であることに照らし、選挙の結果に異動を及ぼすことは明らかであるとして、町選管のした異議申立棄却決定を取り消し、本件選挙を無効とする旨の裁決をした。

3  しかし、被告の裁決は次の理由で違法である。

(一) 宣誓書の補正について理由齟齬がある。

被告は、右裁決の理由中で、不在者投票に関し、不在者投票事由の認定は、宣誓書の記載によつてなされなければならず、宣誓書には具体的にその事由を記載することが必要とされるとの法解釈を前提としながら、他方、不在者投票者は口頭による申立によつて宣誓書の記載を補正しうること、町選管委員長は不在者投票者から宣誓書補正のための口頭による申立を受けて宣誓書の不備を補正させうることを認めている。それゆえ、右裁決には理由齟齬があるものというべきである。

(二) 宣誓書の記載について法令解釈の誤りがある。

(1) 被告は、公職選挙法(以下「法」という。)四九条、同法施行令(以下「令」という。)五二条、五三条の解釈に関し、宣誓書の記載については、「やむを得ない用務」「歩行が著しく困難である。」などの事由があり、「選挙の当日自ら投票することができない」との事実を認めうる程度に具体的な記載がなければならないとの法解釈を前提とし、本件選挙において、不在者投票事由が、単に「旅行」、「那覇行」、「旅行見学」と記載された者は、その目的、行先地、不在期間が明らかでないから、右記載から「やむを得ない用務のため選挙の当日自ら投票所に行つて投票することができない」ものと認めることはできず、また、単に「神経痛」、「高血圧」、「関節炎」、「病気」とのみ記載された者は、「歩行が著しく困難であつて、選挙の当日自ら投票所に行き投票をすることができない」ものと認めることはできないと判示している。

(2) しかし、公職選挙法、同施行令の不在者投票に関する規定、なかんずく令五二条の改正により証明書方式から宣誓書方式に切り換えられた趣旨にかんがみれば、不在者投票事由の認定資料が宣誓書のみに限定されるものでないことは明らかであつて、町選管委員長は、宣誓書の記載自体から不在者投票事由の有無を判断し得ない場合であつても、その他の資料、例えば、不在者投票者が疾病のため歩行困難であることが委員長を含め全町民にかねてより了知されている事実であること、委員長の口頭による質問で右事由の存在が判然としたことなどの事実があるときは、自らの権限と責任において、右事由の有無につき認定しうるものと解すべきである。

よつて、不在者投票事由の有無の認定を宣誓書の記載のみに求める被告の見解は、明らかに法令の解釈を誤つたものである。

(三) 不在者投票事由の認定について事実誤認がある。

(1) 被告は、町選管は不在者投票事由の有無の認定にあたり、宣誓書を十分に審査せず、その結果、不在者投票の要件を欠く相当数の者に投票をさせた違法があると認定し、一時間に四五人ないし五五人を不在者投票させたことからみても宣誓書の審査が殆んどなされなかつたことが認められると判示している。

(2) しかし、町選管が不在者投票事由の有無の認定をするにあたつては、不在者投票者全員から宣誓書を徴したうえ、不在者投票事由の不備な者については、町選管委員長が直接口頭により質疑をなし、あるいは、投票者の外観、容貌に基づいて判断するなどして、右事由の存在を確認してその補正をさせ、その結果不在者投票を行わしめたものであつて、町選管の右事由の認定についてはなんら違法は存しない。よつて、被告の前記裁決には事実誤認の違法がある。

二  請求の原因に対する答弁

1  請求の原因事実1、2は認める。同3のうち(一)は認めるが、裁決に理由齟齬があるとの主張は争う。同3(二)(1)は認めるが、同(2)は争う。同(3)(1)は認めるが、同(2)は争う。

2  本件選挙の無効原因

本件選挙は、不在者投票に関する手続につき、選挙の管理執行の規定に違反があり、右違法は選挙の結果に異動を生ずるおそれがあるから無効である。

(一) 本来、選挙人が不在者投票をする場所において不在者投票管理者に直接不在者投票請求をした場合において、管理者はその請求書記載の事由が法定の事由に該当することが明らかでないと認めるときには、不十分な部分について選挙人の説明を求め、法定の事由が存在することの申立があつた場合には、それを含めた事由の申立が真正であることを誓う旨の宣誓書を付けさせたうえ不在者投票請求を受理すべきものである。

しかるところ、別紙(二)(不在者投票事由調、旅行内訳調)記載のとおり、本件選挙において町選管が受理した不在者投票者総数一、四七四人のうち、宣誓書に不在者投票事由として「旅行」と記載された者が六一九人あるが、そのうち単に「旅行」とのみ記載されたのが二六八人あり、その他についても、旅行の目的ないし行先地の記載はあつても、不在期間など選挙の当日自ら投票所に行つて投票することができないことを明らかにする具体的記載のないのが殆んどであつて、宣誓書の右記載からは、右の者らが、いわゆるやむを得ない用務のための旅行中であることの事由に該当するものとは認めがたく、従つて、町選管は、右の者らの不在者投票請求を受理すべきでなかつたというべきである。しかるに、町選管は、右の者らがいずれも不在者投票事由を具備したものと認めて、その請求を受理し不在者投票をさせたのであつて、右は明らかに選挙の管理執行に関する規定に違反したものである。

原告は、宣誓書に記載された不在者投票事由の不備の点については、町選管委員長が口頭によつてその事由の存在を確認したと主張するが、右の確認がなされたことは、宣誓書その他の記録によつて知ることができないから、右の確認がなされたからといつて、宣誓書の記載が補正されたものということはできない。

しかして、不在者投票期間中の不在者投票者数、代理投票者数は、別紙(一)(不在者投票処理簿及び代理投票処理簿による日別投票数調)記載のとおりであるところ、右期間における不在者投票所の執務態勢および執務時間に照らすと、町選管委員長が不在者投票者に対し、宣誓書記載の事由の不備の点につき慎重に審査したものとはとうてい考えられないのである。

殊に、別紙(四)(不在者投票事由及び代理投票事由調抜率)記載のとおり、同一人について不在者投票事由と代埋投票事由の異なる者が六七人も存在するのであり、このことからみても、町選管が宣誓書記載の事由の不備の点につき充分な審査をしなかつたことがうかがえる。

(二) また、別紙(三)(第二投票区不在者投票事由別調)記載のとおり、第二投票区における投票者数一七六人のうち、約八〇パーセントにあたる一四四人が不在者投票をなし、右不在者投票者のうち八二人が宣誓書に不在者投票事由として身体的理由―主として老衰または神経痛―を記載していた。しかし、右の第二投票区は離島の来間島であり、投票当日同島には投票所が設置されることになつていたのであつて、投票当日、右の身体的理由によつて、来間島に設置された投票所にさえ行けない右の者らが、投票日以外の日に、船を利用して宮古島にわたり、下地町役場に設置された不在者投票所に出かけ不在者投票ができたというのは、極めて不合理というべきであり、これを換言すれば、不在者投票のために、下地町役場に行けるのであれば、不在者投票の事由としてかかげる病名からすれば、投票日当日、来間島に設置された投票所に出かけることは極めて容易であつたものというべく、従つて、他に特段の事情のないかぎり、宣誓書の右記載からは、右の者らが、いわゆる右の病気のため歩行が著るしく困難であることの事由に該当するものとは認めがたいといわなければならない。しかるに、町選管は、右の者らにいずれも不在者役票事由に該当する事由があるものと認めて、その請求を受理し不在者投票をさせたのであつて、右は明らかに選挙の管理執行に関する規定に違反したものである。

三  原告の付陳

被告主張の本件選挙の無効原因事実のうち別紙(一)ないし(四)に記載された事実および数字関係は認める。

第三  証拠<略>

理由

一請求の原因1および2については、当事間に争いかない。

二そこで、本件裁決に取消事由があるかどうかについて判断する。

1  原告は、先ず、本件裁決には不在者投票における宣誓書の補正についての判断に関し理由齟齬があるというが、不在者投票の事由の認定は宣誓書の記載によつてなすべく、宣誓書に具体的にその事由を記載すべき旨の判断と宣誓書の不備は口頭による申立をもつて補正しうるとの判断とは矛盾するわけではなく、右裁決は宣誓書の記載が不備であつた場合口頭による申立を受けて宣誓書の不備を補正させ右補正させた記載をもつて不在者投票事由を認定すべきものと判示した趣旨であることが窺われるから、右主張は理由がない。

2  次に、原告は、本件裁決には宣誓書の記載について法令の解釈適用の誤りがあるという。

(一)  本件選挙において、昭和四八年九月三〇日から同年一〇月六日までの間、下地町役場に設けられた不在者投票所において、合計一、四七六人が不在者投票および代理投票をなし、その日別の内訳が別表(一)記載のとおりであること

(二)  右一、四七六人(そのうち二人は宣誓書が紛失した。)のうち、「旅行」をもつて不在者投票事由とする者が合計六一九人であり、その他の事由を含めた内訳が別紙(二)上欄記載のとおりであること

(三)  右の「旅行」を理由とするもののうち、宣誓書に単に「旅行」とのみ記載されたのが二六八人あり、その他の事由を記載したものを含めた内訳が別紙(二)下欄記載のとおりであること

(四)  第二投票区における不在者投票者一四四人(一人については宣誓書紛失)の不在者投票事由分類をすれば、別紙(三)上欄記載のとおり、旅行六二、老衰一八、神経痛五二、高血圧八、関節炎二、妊婦一(そのうち旅行六二は(二)の旅行六一九人人に含まれる。)であること

以上の事実は、当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、別紙(一)ないし(三)はいずれも宣誓書の記載を基礎として作成された統計表であることが認められる。

しかるところ、被告は、「旅行」をもつて不在者投票事由とする前記2(二)記載の六一九人は、右宣誓書の記載から、いわゆるやむを得ない用務のため旅行中であるとの事由に該当するものとは認めがたく、従つて、右の者らのした不在者投票は、町選管が法四九条または令五二条の規定に違反してさせた違法があり、本件選挙の無効をきたすものであると主張し、これに対し原告は、町選管が不在者投票請求を受理するにあたつては、不在者役票者全員から宣誓書を徴したうえ、不住者投票事由の記載の不備な者については、町選管委員長が直接口頭により質疑をなし、あるいは投票者の外観、容貌に基づいて判断するなどして、右事由の存在を確認してその補正をさせ、その結果不在者投票を行わしめたものであつて、町選管の右事由の認定にはなんら違法はないと主張する。

よつて考えるに、公職選挙法は、選挙人が選挙の当日自ら投票所に行き投票用紙の交付を受け自ら候補者の氏名を記載して投票するのを原則としており、法四九条の不在者投票は、選挙人の選挙権行使を全からしめるためのやむを得ない措置として認められているのであつて、このような不在者投票制度が濫用されれば、選挙の自由、公正を害する結果ともなるのであるから、不在者投票制度についての法令の解釈適用は厳格かつ適正でなければならない。このような見地に立つて、法四九条および令五二条の規定の趣旨に照らし、あわせて令五二条の改正の趣旨およびその経過(改正前の五二条三項のような規定がないことを含む)を考えれば、不在者投票を請求する者は、選挙の当日自ら投票所に行き役票をすることができない事由を申し立て、かつ、右事由を記載し右申立が真正であることを誓う旨の宣誓書を提出しなければならないのであり、不在者投票管理者は、不在者投票を請求する者が申し立てた事由が法定の事由に該当することが明らかでないと認めるときは、不十分な部分について選挙人に対し質疑をなし、その説明を求め、法定の事由が存在することの申立があつた場合には、それを含めた事由の申立が真正であることを誓う旨の宣誓書を付けさせたうえ不在者投票請求を受理すべきものであり、不在者投票事由としての要件を具備しない事由を記載し、右事由の申立が真正であることを誓う旨の宣誓書が提出されても、投票管理者は右不在者投票請求を受理すべきではないといわなければならない。

しかるところ、さきに説示したとおり、前記六一九人の不在者投票事由として宣誓書に記載された事由は、別紙(二)の下欄のとおりであつて、いずれも、宣誓書に旅行のための不在期間および旅行の目的など、選挙の当日自ら投票所に行つて投票することができないやむを得ない事由があることを明らかにする具体的記載がなく、したがつて、宣誓書の右記載からは、右の者らが、いわゆる選挙の当日やむを得ない用務のたの旅行中であるとの事由に該当するものとして取り扱うことはできず、町選管は、右の者らの不在者投票請求を受理すべきではなかつたといわなければならない。

してみると、町選管が右六一九人に対し、いずれも宣誓書に単に旅行中との事由の記載があるだけで不在者投票事由があるものと認めて、それ請求を受理し不在者投票を許したことは、明らかに選挙の管理執行に関する規定に違反したものである。

もつとも、<証拠>中には、前記の原告主張事実に副う供述部分があるけれども、右供述はにわかに措信しがたく、かえつて、前記当事者間に争いのない事実ならびに<証拠>によれば、本件不在者投票が実施された期間中、不在者投票の事務処理は町選管委員長ほか合計六人によつてなされ、多い時には一日七時間三〇分の執務時間内に三三五人の不在者投票(代理投票を含む)の事務を処理したことが認められるのであり、このことと、別紙(四)記載のとおり、下地町川満一三〇番地下地カメほか六五人についてはいずれも不在者投票事由と代理投票事由が異つており、その掲げる病名が殆んど一率であること(この事実については、当事者間に争いがない)とを併せ考えると、町選管委員長は、事務錯綜のためか、不在者投票事由の申立もしくは宣誓書の記載の不備については、充分な質疑などをしてこれを補正させることをせず、その事務処理に杜撰な点があつたことが認められ、右投票事務の管理執行にはかしがあつたといわざるを得ない。

3 つぎに、被告は、第二投票区における前記2(四)記載の一四四名中旅行を事由とする者を除くその余の八二人は、宣誓書の記載から、いわゆる病気のため歩行が著しく困難であるとの事由に該当するものとは認めがたいから、右の者らのした不在者投票は、町選管が法四九条または令五二条の規定に違反してさせた違法のもので、本件選挙は右管理執行上の違法があるから無効であると主張する。

よつて按ずるに、<証拠>によれば、第二投票区は来間島であり、投票当日、同島には投票所が設置されることになつていたこと、来間島に在住する右の者らが下地町役場に設置された不在者投票所において該投票をするためには、船を利用して宮古島に渡る必要があり、選挙の当日同島内に設けられた投票所で投票する場合に比し、はるかに多くの労力時間および費用を要することが認められ、この事実を、宣誓書に記載された病気の性質(ただし、老衰妊婦の点は除く。)に照らしてみるときは、不在者投票のためわざわざ下地町に出向くことのできる者がなにゆえに選挙の当日、住居地の来間島に設置された投票所に出向いて投票することができないのか、その理由を理解するに苦しまさるを得ないのであり、他に特段の事情のないかぎり、宣誓書に記載された事由、いわゆる病気のため歩行が著しく困難であつて来間島内の投票所に出向くことができないとの事由に該当するものとは到底認めないがたいというべきである。そして、右の特段の事情については、本件全証拠によつてもこれを認めるに足りない。なお、老衰および妊婦については、その性質上、時間の経過に従い、将来において歩行が困難とされる場合も予想されるが、反面、老衰の程度または妊婦の月数によつては歩行が可能であることもあるから、単に宣誓書に老衰または妊娠と記載されただけであつて他に記載のないことが明らかな本件においてはこれら両者についても、他の者らと同様に適法な不在者投票事由があつたものとは解されない。

してみれば、町選管が右八二人に対し、その提出した宣誓書に記載された事由がいずれも不在者投票事由に該当するものと認めて、その不在者投票請求を受理し、不在者投票を許したことは、明らかに選挙の管理執行に関する規定に違反したものである。

三以上二の2および3に説示したとおり、本件選挙は、選挙の管理執行機関において、不在者投票の受理について選挙の管理執行に関する規定に違反していることが明らかであり、しかも、本件選挙において当選人と最高落選者との間の得票差が僅か四票であつたことは、弁論の全趣旨に徴して明らかなところであるから、右の違法は本件選挙の結果に異動を生ぜしめただけでなく、前示事実関係に照らせば、選挙の自由と公正の理念が阻害させられたものと認められるから、本件選挙は無効というべく、これと同趣旨に出た被告の裁決は正当であり、これが取消を求める原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(森綱郎 宮城安理 大城光代)

別紙(一)〜(四)<省略>

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